この前、山に登ったのはいつだったかなぁ…と、この番組表をめくり返してみたら、なんと去年の6月(キリン峠行)から、山らしい山に登っていないことがわかった。
もちろん、大山滝の上流や一枚岩渓谷、羽衣石山なんかの“なんちゃって”登山はこなしているけれど、本格登山の目安となる1000m超えはキリン峠以来なのだ。
で、今回の目的地は矢筈ヶ山(1359m)。烏ヶ山(1448m)に次いで琴浦町No.2の高さを誇る名峰である。
そうそう、名峰と言えばNHKのBSハイビジョンで募集した『日本の名峰』人気投票で、ふるさとの名峰・大山はなんと富士山、槍ヶ岳に次いで第3位に輝いた。
すぐそこにあって、いつも見慣れている山が全国の名だたる3000m級の山々より評価が高かったのは、面映いけどすごく嬉しい。
米子方面から見た山姿の美しさが、40分ほど車を走らせて鍵掛峠から見ると、アルプスを彷彿させる景色に変わる。たぶんそんな多様さと気軽さが人気の要素になっているのかもしれない。
そうそう、大山ではなく矢筈ヶ山だった。
矢筈ヶ山へは通常だと一向平から大山滝、大休峠を経由して行くのだけれど、吊橋手前の遊歩道が崩落して通行禁止になっているから通れない。
船上山から勝田ヶ山、甲ヶ山を越えていく縦走路もあるけど、ちょっとエラすぎるので却下。結局、香取から入る一番楽なルートを選んだ。久しぶりの登山はリハビリも兼ねているのだ。
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今回は特別ゲストを招いた。琴浦町法万の中村暢宏さん(67)。中村さんは、この夏に大阪・茨木からIターン。空き家を借りて一人住まいを始められた。以前から、東大山のブナの美しさに魅せられて、頻繁に琴浦通いを繰り返しておられたから、まさに「念願かなって」の琴浦住まいとなった。
▲大阪からIターン、中村暢宏さん
大山が全国3位に輝いたこともそうだけど、“魅せられた”なんて聞くと、僕たちのふるさとにはいい山があるんだなぁと再認識させられる。もっと大切に、そして誇りにしなくては…と改めて思う。
香取の登山口には、4駆車が2台と軽トラが8台。おそらくキノコ(主にマイタケ)採りの入山者に違いなかった。
撮影の準備をしている間にも、50代の女性3人が「どうせ採れらへんけぇ」と大きな声で笑いながら、僕らの横を “おいこ”を背負ってすり抜けていった。
今夏は雨が少なく、秋のキノコは不作と予想されていたが、案の定9月から生え始めるマイタケはあまり採れていないらしかった。
僕たちは9月の番組で里山のキノコをたくさん採ったが、里山だけでは片手落ちなので、深山のキノコも探しながら歩くことにした。
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登山口から、若いブナの二次林の中を15分ほど歩くと大山道に出た。大山道は、平安時代中期の山岳仏教の盛んなころ、大山寺と三徳山を結ぶ信仰の道として使われたもので、現在は、一向平〜川床(大山町)の9kmが中国自然歩道として残っている。
昭和20年代までは、旧東伯町と大山寺を結ぶ生活道路のような感覚で、当たり前のように人や牛馬、犬猫(?)が歩いていたという。
そして大休峠の近くには、江戸時代に敷かれたという石畳も当時のままに横たわっている。なんとも由緒正しい道なのだ。
▲江戸時代に造られた石畳
その由緒正しい道を歩くと、山頂に近い部分を紅葉色に染めた甲ヶ山が見え隠れした。
立ち枯れのブナや倒木には、あまり由緒正しくない毒キノコのツキヨタケがたくさんついていた。
地ナメコも数本見つかった。自称キノコ博士の田村隊員が、正式の名は『チャナメツムタケ』と教えてくれた。その隣には『シロナメツムタケ』が2本。ともに、あまり見つからない美味しいキノコである。
田村博士によれば、他に『キナメツムタケ』という種類もあるそうで、3種揃えばば早口言葉になるかなと思って探したけどなかった。
そのほか、ブナハリタケとナラタケも見つかった。ナラタケには、キノコを常食にしている白いナメクジもついてきた。田村博士に刺激されたのか、谷口隊員はそのナメクジの名を『ダイセンオオシロナメクジ』だと言ったが、誰もが聞かないふりをした。
▲ダイセンオオシロナメクジ?
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撮影、道草なんやかやで出発からおよそ3時間半、久しぶりに皆が由緒正しく「ヒィーヒィー」あえぎながら山頂に着いた。湯を沸かして、カップ麺とおにぎりで昼飯。暑い時期にはブンブン飛んでいる金バエが1匹も見当たらないのが嬉しかった。
北には紅葉に染まり始めた小矢筈、西には甲ヶ山がくっきりと。南には全国第3位の大山が堂々と聳えている。
下界に目をやると、倉坂の谷に小田股ダムが完成しており、その水面が目印になって琴浦町内の谷の位置関係が実によくわかった。
大阪から琴浦へ来て3か月。「なんやかやで忙しく、たったの1度しか山へ登っていない」とぼやいていた中村さんも満足そうだ。隊員たちも雄大な景色を楽しんでいる。
われらは登山隊。
しつこいようだけど、われらは登山隊。
やっぱり山に登らねば…。