2005年1月16日日曜日

登山隊かまくらをつくる〈Peak.22〉



 1月16日、午前11時30分。一向平の畜産団地付近の積雪は50センチほど。野営場へと続く直線道路の除雪はもちろんしてあるわけない。
 スノーシューを履いて、一人で歩き始めた。実はこの日、僕はどうしてもはずせない用があって昼ご飯からの参加になってしまったのだ。
 今回のテーマは“かまくら”である。
 地球温暖化の影響なのだろう。雪国・山陰でも近年は積雪がぐーんと減っている。僕が子どもの頃は、何日も雪が降り続いて、物理的にも精神的にも『雪に閉ざされる』ことがひと冬に何度かあったように記憶している。
 もちろん今は、除雪態勢が昔とは格段に違うし、家の中の暖房も快適になって、雪の“威力”は半減しているが、それにしても圧倒的に降雪量・積雪量が違う。だからかまくらも、まったくと言っていいほど見なくなった。実際、僕がかまくらをつくったのもたぶん40年近く前である。
 野営場へと続く直線道路にはたくさんの足跡が残っていた。
 隊員達は2時間ほど前に、スノーダンプその他を装備して、かまくら設営地・一向平駐車場へ向かって行った。その1時間後には『らくらく山歩会』の助っ人部隊が隊員達を追いかけて行った、はずである。
 気温が比較的高かったせいか、あまり時間がたっていないのに、もう足跡がぼやけていた。
◇      ◇
 30分ほど歩いて駐車場に着いた。積雪は約80センチ。いつものこの時期よりはうんと少ない。
 お椀を逆さまにしたような雪の山がデーンと居座っていた。
 「ここまで大きくするのは大変だっただろうなぁ」とは思ったが、甘い顔をするとすぐつけあがるのがヒィーヒィー隊員の常である。
 「まだちっちゃいな」とそっぽを向くぐらいがちょうどいいのだ。
 登山隊のロケでは見慣れない赤やピンクのヤッケが目立つ。さすがベテランの女性が多い『らくらく山歩会』。宮川千加子さん、岩本良枝さん、小谷敬恵さん、大谷美津子さん。何がベテランかはよー書かんけど、とにかくカラフルである。
 ちなみに山歩会・男性の部からは松本薫さん、山根久さん、生田栄さんの3人。カラフルではないが、山で生きる昔ながらの知恵をまとった賢人達である。
 八橋小学校で外国語指導助手をしているキャサリン・カーナハンさんも参加してくれていた。彼女は米国南部・ルイジアナの出身でニックネームはケィティ。もちろんかまくらづくりは初めてだという。何歳か聞くのは忘れたが、山歩会メンバーの平均年齢の引き下げに孤軍奮闘していたのは言うまでもない。
 初参加がもう一人。この番組表に掲載した◆まだまだ隊員募集中◆を見て(騙されて?)、小前裕之会社員(45)が準隊員として名を連ねることになったのだ。

▲自らを「かまくら職人」と呼ぶだけあって、仕事っぷりはさすが、あっぱれ。かまくらの上で指揮をとる小前裕之準隊員

 最初電話で、かまくらづくりの日程を連絡したときには「村の消防の用事があって出れません」ということだったが、翌日には「出れます」という返事。
 なかなかいい心掛けである。登山隊のロケには万難を排して参加するのが隊員の義務なのだ。でも村の消防隊の行事に参加するのも隊員の義務である。どっちの隊員の義務を優先させるか・・・う〜ん・・・ま、どっちでもええか。
 考えるのを止め、山歩会定番の豚汁昼定食をかっこんで、かまくらづくり午後の部が始まった。
◇      ◇
 “かまくら”を広辞苑で引くと、秋田県横手地方での小正月の行事とある。その行事とは、こども達が雪で室(むろ)を作って水神を祭り、15日の朝、その前で火を焚いて鳥追いの歌を歌うのだという。
 つまり“かまくら”とは、構造物ではなく行事を指すのだ。な〜んてウンチクはさておいて、とにかく大きな、14人全員がゆったり入れるくらい大きなやつを造りたかった。
 で、かまくらづくり午後の部である。



▲完成したかまくらの前で。浜本隊員はお昼で帰ってしまったので姿がない。

 「まだちっちゃいな」とそっぽを向いたやつに無理やり雪を貼り付け、床の直径4m、高さ3mに仕上げた。
 次はくりぬき。最初は1人で、作業が進むと2人力で建坪を増やしていく。同時に中にローソクを立てるミニかまくらも50個ほど作った。
 このミニかまくら。テレビを観た多くの人たちから「とってもきれいだった」と好評だった。
 バケツに雪を詰めて、ひっくり返して中をくりぬいて、ローソクを立てるだけだからぜひ皆さんも挑戦を!


 
◇      ◇

 “雪遊び”と聞いて、今のこどもたちは何を思い浮かべるだろう。というか、大人たちはどんな雪遊びを子どもに教えているのだろう。
 大人が雪を嫌って家の中に閉じこもれば、子どももそれを真似するし、雪は“嫌なもの”として心の中にインプットされてしまう。逆に、大人がどんどん戸外に出れば、子どもたちは自然に新しい遊びを見出していく。
 ゲレンデに行ってスキー、スノボもいいだろう。でも金とヒマがいる。
 津軽には七つの雪が降るとか。
 粉雪、綿雪、水雪・・・etc。琴浦と大栄ではいくつの雪を見ることができるのだろう。
 自分の家のかどで、前の田んぼで、裏の坂道で、どんな遊びをしたら楽しいだろう。
 雪の降る夜はどうして静かなんだろう。
 いろんなことを考えて、いろんなことに思いを馳せる。
 雪を疎まず、雪に親しみたい。
 せっかく、雪の積もる町に住んでいるのだから・・・。