2007年4月14日土曜日

合併記念!ヤマザクラを見に行く〈Peak.48〉


場所を地図で確認する>>クリック

 暖冬の影響で、今年のソメイヨシノは随分早く咲くのかなぁと思っていたら、結局はほぼ平年並。このあたりでは4月の第2週に満開になった。
 ソメイヨシノといえば、今では桜の代名詞みたいになっているけど、実は江戸末期から明治初期にかけて、江戸・染井村の造園師や植木職人らによって育成された品種なのだそうな。当時は吉野桜(ヤマザクラの意)として売り出していたが、詳しい調査でヤマザクラとは異なる種の桜であることがわかり、明治33年に日本園芸雑誌において『染井吉野』と命名されたという。
 ちなみにヤマザクラは山に生えている桜だからそう呼ぶのではない。れっきとした品種名なのだ。日本に自生する桜の野性種の一つで、多くの栽培品種はヤマザクラをもとに選抜されている。つまり日本の桜の母に当たるのだ。
 その母、花が先に出るソメイヨシノと違って葉と花が同時に出る特徴を持っている。こちらは暖冬の影響を受けたようで、今年は随分開花が早かった。個体差があって一概には言えないけれど、いつもの年ならソメイヨシノと前後して咲く木が、今年は3月の末から満開になった。
 ヤマザクラの場合、開花が早い木と遅い木ではひと月ほどの差がでる。ソメイヨシノだとそこいら中で一斉に満開になるから、見頃はほんの2・3日だが、ヤマザクラは十人(木)十色。
 ソメイヨシノが普及する前は、日替わりで満開になるヤマザクラの木にあわせて長い間花見を楽しむ文化があったようだ。
 ところで4月1日付でケーブルテレビが合併し、その記念に「どこか湯梨浜町の山に登らないけんなぁ」と思っていたら、谷口隊員が耳寄りな情報を仕入れてきた。十万寺集落(旧東郷町)近くの山中に大きなヤマザクラの木があるという。
 大きな桜と聞けば花見しかない。
 というわけで4月14日、湯梨浜町の羽衣石(うえし)に久しぶりに隊員全員が集まった。目指すヤマザクラは羽衣石から三朝町山田へ通じる中国自然歩道の途中にある。羽衣石登山口—羽衣石城跡(376m)—三角点(518m)—ヤマザクラはおよそ3kmの行程。標高差は400mもないから、データ的に見れば楽ちんコースである。
◇      ◇

 羽衣石城跡へは去年の3月にこの番組のロケで上ったことがある。駐車場のある上り口から城跡まではわずか700mほどしかないが、その間に200m以上の標高を稼がなければならない。階段状登山道の勾配がきつく、翌日は両腿が筋肉痛になったのを覚えている。
 案の定、この道を初めて歩く3人が5分もたたないうちに、まとめて音を上げた。
 「あ、足が上がらん!」(小前)
 「歩き出す前に『えらい』って言っといてもらわんと・・・」(スエイシー)
 「しゃべるとえらいけ、しゃべらん」(浜本)
 歩かなければ放っておくだけなんだけど、野垂れ死にされてもかなわんし…ということで盛大に休憩をとり、登山道脇の春の花の撮影などもこなしながら40分ほどかかって城跡に着いた。
 羽衣石城は1366年(室町時代)に南条貞宗によって築城されたと伝えられている。城のある羽衣石山はとても険しい山で、もとは『崩岩の山』と呼ばれていたものを、城が永く続くことを願い、古歌にちなんで羽衣石山と改称したと言われている。もひとつ羽衣伝説に由来しているという説もある。現在の天守閣は平成2年に建てられた。
 さぁ先を急ごう。次の目標は標高518mの三角点。山の名はなく三角点だけがあるだけの変な山だけど、この区間がくせものだった。
 距離は1.7キロ。表向きは標高376mの城跡から142m登るだけなのだが、尾根につけられている道は、城跡からどんどんどんどん下っていた。下ったからには上らにゃならぬ。

 城跡までの道は北向きの斜面で杉が多く、どよ〜んとした気持ちで歩いていたけど、城跡を過ぎてからは南東に向かって延びる尾根道に変わり、まわりの木もアカマツ・落葉広葉樹・照葉樹中心に変わった。アップダウンはきついけど気持ちはう〜んと晴れやかになった。

◇      ◇

 登山道のあちこちにイノシシが体を木にこすりつけた痕があった。イノシシは体についたダニを落としたり体温調節をするために、よく泥浴や水浴を行う。特に泥浴を行う場所はヌタバ(沼田場)と呼ばれ、イノシシが横になり転がりながら全身に泥を塗る。そのことを『ぬたうつ』と言う。うんちくついでに紹介するとこれは、苦しみあがくという意味の『ぬたうちまわる』の語源になっている。

【かい〜の! イノシシの真似をする浜本隊員】

 その泥浴や水浴の後に、体を木に擦り付ける習性があるのだけれど、なぜかたくさんあるアカマツにその痕はなく、ポツンポツンとあるカラマツにだけ擦り付けた痕があった。イノシシはカラマツが大好きなのだ。
 1時間半ほどで三角点。そこから10分ほど行くと、目指すヤマザクラが現れた。
 僕の日頃の行いが良いというかなんというか、折しも満開。あまり手入れがされていないヒノキ林の中にぽっかり穴が開いたように異質な空間が広がっていた。
 ソメイヨシノの寿命は人間とほぼ同じ80年。ヤマザクラは数百年生きると言われている。
 目通りの直径は1mほどあるだろうか。ヤマザクラではいわゆる『巨木』の部類に入る大きさだ。上の方の花は少し丸まり、八重桜のようにも見えた。途中で幾筋にも分かれた幹と枝は横に張り出すのをヒノキに妨げられ、天に向かって伸びていた。
 この樹は深い山の中でどんな年月を重ねてきたのだろう。
 毎年どんな花を蓄えながら羽衣石山や十万寺の変遷を見てきたのだろう・・・。
 僕たちは丸っぽい花を目に焼き付けながら缶ビールと団子で乾杯し、このヤマザクラを称えた。

【歴史を刻んだヤマザクラの前で】