2007年11月14日水曜日

にっぽんの秋をさがして…〈Peak.54〉



♪秋の夕日に照る山もみじ

 
濃いも薄いも数ある中に——♪

 にっぽんの秋の歌『もみじ』。小学生の頃、紅葉シーズンになると毎年朝礼でこの歌の合唱練習をさせられたっけ。曲の途中でハモりがあったりしてなかなかうっとうしかった。でも練習がイヤだっただけで、歌自体はとっても美しい歌詞で好きだった。
 そんな照る山もみじが近年まるできれいじゃない。紅葉も黄葉も枯れたような感じで、今ひとつどころか二つも三つも鮮やかさが足りないのだ。原因は地球温暖化だの酸性雨だの言われているが、地球規模の様々な環境悪化が原因であることは間違いない。
 黄葉は黄色い葉限定の紅葉で、こちらも“こうよう”と読む。紅葉は紅い葉限定の場合もあるが黄葉を含んだ総合的な紅葉をいう場合の方が多い。う〜ん、ややこしい。
 ややこしついでに色変化のメカニズムにも触れておくかな。紫外線によって細胞の液胞中のアントシアニンが増し、葉緑素が分解するのが紅葉。一方黄葉は、葉緑素が分解し、カロチノイド(黄色色素)が残るために起こる。
 で、今回の番組は、局地的でもいいから「あ〜きれいだ」と思える紅葉を求めて一向平から大山滝・大休口方面へ向かった。
 大山山系の場合、以前は文化の日前後が紅葉の“見ごろ”だったが、近年はピークがなく五月雨式に色づいてさっさと散ってしまう。大山滝に向かう道沿いには11月の半ばだというのにまだ色づいていないカエデ類があちこちに見られた。

◇      ◇

 局地的にもきれいな紅葉がないことがわかると、番組内容は急速に『キノコ』に傾いていった。この時期食べておいしい深山のキノコといえばナメコとムキタケ。それらを探しながら目についた珍種キノコも撮影することにした。
 久しぶりに参加したスエイシー隊員が愛犬フラッフィーを連れてきていた。一度も食ったことはないが、値段の高い美味キノコとして有名なトリュフは、専門の探索犬・豚がいるので、フラッフィーを初代ナメコ犬に任命しようとしたが、本人(犬)にまったくヤル気がなさそうだったのであきらめた。
 フラッフィーにはヤル気がなくても、キノコとなるとガ然ヤル気を見せるのが自称キノコ博士・田村隊員である。彼の愛読書はヤマケイのキノコ図鑑。とは言っても机上の知識だけではない。大きな声では言えないけど、何回か食中毒を経験している突撃派の自称博士なのだ。

 珍種その1は『スッポンタケ』。

【スッポンタケ】黒っぽい部分がヌルヌルしている

名前の通りスッポンがニョロ〜っと首を出したような姿をしている。
 先の黒っぽい部分はヌルヌルして臭い。臭いにもかかわらず案外美味なようで、ヌルヌルを洗い流し、ゆがいて水にさらしてから中華風スープの材料として使うという。
 何もわざわざ臭いものを食わんでも、とは思うけど中華食材として高名なキヌガサタケも同じように臭いヌルヌルが付いているそうだから仕方ないかな。

 珍種その2は『ツチグリ』。

【ツチグリ】とてもキノコには見えない

 これのどこがキノコ?というような姿をしているが、れっきとしたニセショウロ目のキノコ。なんと、湿度の低い時は花びらみたいな部分を閉じ、高いときは開く性質を持っていて『キノコの晴雨計』と呼ばれているという。臭いやつもあれば賢いやつもいるんだなぁ・・・。

 美味いやつの話もせねば。山をごそごそして探したのはムキタケ。このあたりでは『ボタヒラ』ともいう。傘全体になんとも言えない質感があり、ぼて〜っとしたヒラタケだからそう呼ばれているのかな。傘の皮が簡単にむけるからムキタケと名づけられている。
 もう一つの美味いやつはナメコ。

【ナメコ】天然ものは大きく育つ

 スーパーに売ってあるのは菌床栽培のものが多く、小指の先ほどの大きさの時に摘み取られているけど、広葉樹の朽木に生える天然ものは、放っておくと傘が10センチ近くの大きさになる。大きくなっても風味は変わらず、もちろん食い応えは比べようがない。見た目の美しささえガマンすれば、大きいことはいいことだ♪っと。
 ムキタケとナメコは昼飯に。谷川で洗って、谷川の水で味噌汁をつくった。

◇      ◇

 それにしても近年は深山だけでなく里山もめっきり色づきが悪くなった。昔はイッポンシメジがたくさん生えていた雑木林も荒れ放題で、足を踏み入れることさえためらわれるような山が多い。
 健全な森林は、樹木の高さが高・中・低と層になっていて日当たりが良いが、歩く隙間のないような雑木林はやはり病んでいて、紅葉すら満足にできないのだろう。
 『もみじ』は次のように歌詞を結んでいる。
 ♪赤や黄色の色さまざまに
    水の上にも織る錦♪
 同じ赤でも濃いの薄いの、エンジっぽいのオレンジっぽいのと様々。赤も黄色も樹ごとに色を変え山肌を彩る。その間にはまるで意図したかのように常緑樹のあざやかな緑が配置され、にっぽんの秋はなんとも繊細で、みやびな色模様を描き出す。
 錦秋=きんしゅう。
 こんな美しい言葉で表わされる秋は、もう永久に戻ってこないのかなぁ・・・。