2005年8月23日火曜日

バスはうまい!?のだ〈Peak.29〉



 一般に言うブラックバスのことを、正式にはラージマウスバスという。1925年に北米から神奈川県の芦ノ湖に持ち込まれたこの淡水魚は、80年代後半から盛んになったゲームフィッシングの波に乗って全国に一気に広がった。今では琴浦と大栄のほとんどのため池に住みついている。
 和名はオオクチバス。北米原産だから、当然日本語訳の方が後からついているわけだけど、
 『そのまんまだがな!』とツッコミかけた口をすぐさまつぐんでしまうくらい大きな口をしている。また最近では口が小さめのコクチバスも増えてきているらしい。そのバスをど〜んと食ってしまおう、というのが今回の企画である。
 テレビの釣り番組で、ブランド釣りウェアに全身を包んだ茶髪のお兄さんが、大げさに『ヒット!』とか『ゲット!』な〜んて叫んでいるのをよく見るが、食っているのは一度も見たことがない。
 高級魚の鱸(すずき)そっくりだから、まずいはずはないのだろうけど、なぜか食わない。釣る場所が汚い水だったりするからかなぁ、とも思うけど・・・どうしてだろう。
 な〜んて考えているうちにバスは今年、駆除を前提とした“特定外来生物”(※注参照)に指定されてしまった。
 駆除なんて言葉を使うと、なんか害虫みたいだけど、それもそのはず、特定外来生物に指定されるということは “害魚”とみなされるということなのだ。
◇      ◇
 番組では、大栄町のスイカ選果場の南にある西岡谷池と琴浦町で一番大きな上鳥池でバスを釣った。二つの池とも、水利と水面権は妻波公民館が持っている。
 海や川、湖では誰でも自由に遊べるが、人工の池はそうではない。多くの場合、その昔に池を造った集落や利用組合などによって所有権が設定されており、水面権の所有者の許可がなければ、その池の魚を釣ることはおろか立ち入ることさえできない。事前に山田一公民館長に電話を入れ、番組の趣旨を説明して釣りの許可をもらった。山田さんは「立ち入り禁止の看板なんかおかまいなしで、釣り易くしようと池の水を抜くようなバカもいる」と憤慨していた。
 8月23日。ゴムボートを車の屋根に積んで朝5時に会社を出発。西岡谷池で自称・バス釣り名人の小前隊員と待ち合わせた。釣りはバスに限らず、早朝か夕方がよく釣れる。実は前日の夕方に大雨に見舞われており、放送日から逆算してこの朝がラストチャンス。番組の成否は、小前隊員の太いけど頼りない右腕にかかっていた。
 で、万全を期して下手でも釣れる早朝である。小前隊員は今年1月のかまくらづくりの時も“自称・かまくら職人”と名乗っていたような記憶があるが、まあいい。問題は結果である。あたりがようやく白み始めた5時半前に一投目の波紋が広がった。
 西岡谷池は水が少なく、おまけに藻が池全体に繁殖していた。たまに遠くで、小さな魚がポチャんと跳ねるが、小前隊員の竿には30分経っても何の当たりもなかった。
 「やっぱり、この藻がいけませんねぇ」と小前隊員。
 「藻より腕の問題でないだかいや」と思ったけど、たかが30分ほどの時間で名人失格の烙印を押すのも大人気ないので、小前隊員の意見に従って上鳥池に移動することにした。
◇      ◇
 上鳥池はカーキ色をしていた。前日の大雨の濁りに、もひとつ不気味な何かが混ざった色である。ここも水量は少なかった。空き缶やプラスチック類、グジャグジャにからまった釣り糸などが水際に散乱し、油が浮いている場所もあった。そんな水面を見ながら谷口隊員が「小学校の時、遠足で来たことがある」と懐かしがった。
 バスが釣れるまでの間、僕と谷口隊員、朝倉シェルパ隊長は料理の準備に取りかかった。といっても炭をおこすだけだが、着火材をたくさん使って煙をたくさん出した。「釣れるまで帰ってくるな」という無言の圧力である。


▲「まだ釣れんだかいやっ」ゴムボートを見守る前田隊長と朝倉シェルパ隊長(上鳥池)

 小前隊員の勇姿を撮影しようと一緒にゴムボートに乗り込んだ田村隊員が、あくびをかみ殺しているのが、陸からもよく見えた。そうこうしているうちに役場のチャイムが7時を告げた。
 同時に沖を眺めていた谷口隊員から歓声があがった。待望の1匹目。大きさは25センチほどのチビバス。1匹釣って小前隊員もプレッシャーから解放されたのか、しばらくして今度は40センチオーバーを釣り上げた。自称名人の面目躍如である。
◇      ◇
 バスは、昔から池にいる鮒や鯉などの幼魚を食べつくすから害魚だという。バスにとってみれば、何とも理不尽な話で、無理矢理日本に連れてこられ、普通に餌を食べていたら、いつの間にか“ならず者”扱いされるようになってしまったのだ。
 バス釣りは頭脳と技術を駆使してバスをだまし、疑似餌に食いつかせる、実に高度で面白いゲームだと言われている。ゲームだから食用にせず再び水の中に返す。関係ないけど、オレオレ詐欺は、言葉巧みに現金をだまし取るが、その現金を返すことはない。でもなんかこの二つはとてもよく似ているような気がする。


▲40センチオーバーのバスをさばく小前隊員と「ハラワタとって、塩焼きがええなあ」と注文する前田隊長

 ところでバスはやっぱり旨い魚だった。とくに塩焼きは絶品である。1週間ほどきれいな川で泳がせたら『洗い』もトップランクの料理になりそうだ。
 やっぱり釣った魚は食うべきなのだ。もちろんバスも。命を大切にする気持ち=リリースでは決してない。食う分しか釣らない。言い換えれば、食わない魚は釣らない、ということの中にこそ、命を大切にする気持ちが溢れている。


▲害魚“ブラックバス”に丸呑みされていた害魚“ブルーギル”

※注 特定外来生物
もともと日本にいなかった外来生物のうち生態系などに被害を及ぼすものにつき、飼育・栽培・保管・運搬・販売・譲渡・輸入が禁止された。ヌートリア、アライグマ、カミツキガメ、オオクチバス、コクチバス、ブルーギル、ミズヒマワリなどたくさんの外来の動植物が指定されている。