2004年1月26日月曜日

厳寒の大山滝へ〈Peak.10〉



 雪の大山滝は、何年も前から行きたいと思っていた。これまで写真は見たことがあったが、ビデオカメラの映像は見たことがなかった。むろん何もせずに手をこまねいていたわけではない。何回かチャレンジはした。でも、2m近い積雪と、吊橋手前の"谷底滑落即死亡型なだれ"に行く手を阻まれ続けてきたのだ。
 いわくつきのなだれは"型"付きである。カタがつくとなんだって怖いのだ。あの鳥インフルエンザだってH型。借金のカタに内臓を売らされたという話もよく(?)聞く。リストラの肩たたきにも遭いたくない。ボブ・サップにかけられる片エビ固めなんかは死ぬほど痛いだろう。何がなんだかわからなくなってきたが、とにかくカタがくっつくと怖いのだ。
 でも、いつも途中で断念していてはTCBの名がすたる。我々ヒィーヒィー隊がきっちりカタをつけなくては。
 ということで決行日は1月26日。今回は久しぶりに全員が揃った。実に去年6月の烏ヶ山登山以来だ。隊員勢ぞろいを祝福するかのように青空が歓迎してくれた。というか、これまで浜本隊員が参加したときはいつも晴れている。自分が参加できないのを逆恨みして、雨ガエルを殺したりするから天気が悪くなるのだ。
 一向平の畜産団地に車を置かせてもらい、その場で西洋かんじき・スノーシューを履いた。長円形のアルミのフレームに、すべり止めの歯がついている。使い勝手がいいから、年々人気が高まっているようだ。和かんじきとの一番の違いは、かかとが上がることだろう。
 畜産団地付近の積雪は1mあまり。前日まで低温が続いていたので、雪面から30 ほどはさらさらのパウダースノー。ということは、いくらスノーシューでも「はまる」のだ。ということは、先頭を歩くと「えらい」のだ。というわけで、一向平管理棟までの約1 は朝倉シェルパ隊長が栄誉あるラッセル隊長も兼務した。
◇      ◇
 一向平管理棟の温度計は摂氏零度だった。陽が当たり、風がないので思ったより暖かく感じる。あちこちにキツネとタヌキの足跡。中国自然歩道の案内看板が雪に埋もれている。
 午前10時、いよいよ大山滝へ出発。キャンプ場の中をショートカットして歩けるのも、この時期ならではだ。
 積雪は1m以上あるのは確実だが、思ったより、なだれの度合いが少ない。これまでの経験だと、山の西側斜面に切られた散策道は、どこが道だかわからないほどなだれていたのに、今回は楽に判別できた。
 スノーシューを履いているので、とくに道の部分を歩く必要はないのだが、ついつい道を探してしまうのは、サラリーマンの悲しい性か。
 お不動さんの脇をすり抜け、杉林を過ぎるといよいよ例の"谷底滑落即死亡型なだれ"が待ち受ける危険ゾーンに入った。
 先頭は谷口隊員。本業の仕事が忙しく、昼前にはこの隊を離脱するため、つらいラッセル役を買って出た。大山滝まで行けるのなら苦労が報われることになるが、昼前までということは、どう考えても吊橋まで。損な役回りだが仕方ない。こうした尊い犠牲の上に、素晴らしい成果が生まれるのだ。
 谷底に滑落しないように、足場を一歩一歩固めながら進む。なだれた斜面の傾斜は約50度。山側が極端に高く、スノーシューがひっかかってなんとも歩きにくい。
 案の定、朝倉シェルパ隊長が転倒した。なんともあっさり"転倒"で片付けたが、詳しく書いたら、消防署他各救助関係方面からお叱りがくるから、転倒した、のだ。
 この転倒に気がついたのは後ろを歩いていた田村カメラマン。彼はしっかりカメラを回していた。さすがである。でも放送では使えない。お叱りがくる、のだ。
 鮎返りの滝からは、なだれがさらに厳しくなった。足場を固めるための一歩を踏み出すのが難しく、まずスコップで進路を確定させてから左足を踏み出さねばならなかった。
 一歩、また一歩。地道な作業は隊列を少しずつ着実に吊橋に近づけていく。谷口隊員はとっても忙しく、ヒィーヒィー喘いでつらそうだが、他の隊員はヒマなことこの上ない。田村カメラマンは、谷口隊員の奮闘を上から撮ろうと、なだれた雪崖をごそごそしている。
−−そんなことしたら危ないけ、ルートをスコップでつくりよるんだろうが。谷口隊員の立つ瀬がないではないか−−
 結局、谷口隊員は吊橋の手前でリタイア。律儀に「早退します」と宣言して帰っていった。
◇      ◇
 大山滝に着いたのは12時30分。撮影の時間を考えても2時間半はあんまりだ。雪がなければ30分の道のり。いかに雪がすごかったかがわかる。
 さっそく滝つぼへ。これも詳しく書くと救助関係方面からお叱りがくるので、滑るように下りた、ということにしておく。
 間近で見る雪の大山滝。この時期は、小さな支流が雪で埋もれるため水量が少なくなる。でも二段に分けて崩れ落ちる美しさはいつも通りだ。


▲厳冬の大山滝。まるで水墨画の世界だ。

 滝つぼの水をすくって湯を沸かし、昼飯をつくった。
 雪の圧倒的な白さと明るさが色彩のない世界をつくりだしている。人の侵入をずっと拒み続けてきた厳寒の名瀑は、水墨画の中を落ちているようにも見えた。


▲滝の周囲にはたくさんのつららが垂れ下がっていた。寒さを忘れ、カメラを回すカメラマンの田村隊員。