先月の勝田川ロケの時、持久橋(箆津)の下手で、丸っこい巻貝を見つけた。『見つけた』と書くと、1個かと思われそうだけど、見える範囲だけでもたぶん数千個はいたかな。
僕は加勢蛇川の流域の村で生育したから、それなりに川の生き物のことは大体わかっていると思っていたのに、なんとまぁ初めて見る貝だった。やっぱり大体は大体なのだ。
加勢蛇川と勝田川、いくら別の川とはいえ、まったく見たことのない貝が生息していたのにはビックリした。
もちろん名称などわかるわけがない。持久橋の近くに住んでいる人たちにも聞いてみたけど、返ってきたのは「初めて見る」という言葉ばかり。図鑑・ネットで調べても、微妙に似ていたり違ったり。ならばやはり専門家に実物を見てもらうのが一番、ということで県立博物館に電話を入れた。
「あの〜琴浦町の勝田川で丸っこい巻貝を見つけたんですよ。その名称を知りたいんですが・・・」
「え、淡水の貝ですか?ここにはわかる者がいないんですけどね〜。良かったら、詳しい方を紹介しますけど・・・」
そうだよなぁ。博物館の学芸員が全てを知っている必要はないもんなぁ。何かを知りたきゃ『○○を調べればよい』とか、『○○さんに聞けばよい』ということだけわかっていればえーわな。というわけで鳥取市在住の谷岡浩さん(推定65歳以上)を紹介してもらった。
◇ ◇
待ち合わせの前日に、鑑定してもらうサンプルを捕りに勝田川へ出かけた。ド迫力台風4号の影響でかなり増水していたが、事前にマルショーで必殺貝捕り火バサミを仕入れていたので、水に濡れることなく簡単に5,6個捕獲することができた。待ち合わせ場所は谷岡さんの職場である鳥取市内の薬局だった。谷岡さんはその薬局の経営者。淡水貝の専門家は薬剤師でもあった。
【淡水貝博士・谷岡浩さん】
「イシマキガイですね」
谷岡さんの鑑定はあっけなかった。薬剤師だから効能とか副作用とかいろいろ勘案する必要があるだろうに、ものの5秒で断定されてしまった。
あとで聞くと、千代川や河内川など県東部の川の汽水域には結構たくさんいるのだという。谷岡さん自身も、自分で採取した貝殻標本をたくさん持っておられた。
そのイシマキガイ、国内では本州の中部以南から沖縄諸島にかけて生息しているようだ。寒さが苦手なのかどうかは別として、環境省が作成したイシマキガイ分布図には、やはり県東部での生息確認しかされていなかった。
「たぶん県の中・西部は調査がしてないのでは・・・」と谷岡さん。
取りあえず、僕たちが持ち込んだイシマキガイは、初の琴浦町産として晴れて谷岡さんの標本に加えてもらえることになった。
◇ ◇
鳥取市から帰り、今度は勝田川でのロケに突入した。気水域を好むイシマキガイが、どの辺りまで生息しているのか、川を溯りながら調べていくことにした。持久橋下手の大量生息団地をスタート。まずは光橋南えん堤(河口から1,700m)へ。そこではいともたやすく魚道の升の中に生息を確認した。
次は成美橋南えん堤(同2,500m)。ここは、えん堤の上に取水のための簡易堰がつくってあったが、その内側に2個、大き目の個体を見つけた。魚道にはカワニナ(にゅうにゃあ)もいたから、両者は共存できることもわかった。
【石にくっつくイシマキガイ】
僕たちの遡上=ロケは、イシマキガイが見つかるうちは止められなかった。今度は佐崎橋南えん堤(同3,300m)である。
「河口から3kmを超えているのに、もうおらんでもえーで」と思いながら、えん堤の落ち込みをのぞくと、何やら黒くて丸いような物が・・・。胸まで濡らしながら拾い上げると、残念ながらイシマキガイであった。
そして大熊の大山橋(同6,800m)へ。さすがにここまでくると水が冷たかった。寒さが苦手なイシマキガイは住めないだろうなと思いながら川の中を探すと、案の定カワニナしか見えなかった。
これはロケの後にわかったことだけれど、イシマキガイは気水性があるにもかかわらず、成長するにつれて川を溯っていくという面白い習性を持っているのだという。ヒマな人が調べたところでは、19時間で約20m移動したというデータもあるそうな。
◇ ◇
イシマキガイのことを調べようと、インターネットで色々なページを検索していたら、この貝は『水槽の掃除屋さん』として、1個100円ほどで流通していることがわかった。熱帯魚の飼育ブームに乗って、かなりの需要があるという。また他県のある地域では増えすぎて駆除の対象になっている一方で、鳥取県では準絶滅危惧種に指定されている。
とは言っても持久橋下手では、絶滅などどこ吹く風、大小雌雄様々な個体がたくましく繁殖していた。特に今の時期は、そこら中の石の表面に白い胡麻粒状の卵のうをびっしりと付け、磐石な次世代への体制を築いている。
番組では最後に、薄めの醤油味で煮て食べてみた。『捕ったら食う』のはヒィーヒィー隊の隊是である。味は、予想通りシタダニ(海の巻貝)とよく似ていた。普段は、わざわざ捕って食おうとは思わないが、何かの加減で食料危機になんかなったりしたら、タンパク質の摂取にはお手ごろ・お手軽な食材になるに違いない。
それにしてもイシマキガイは、水槽のガラス面しか掃除できんのかなぁ。どうせなら勝田川河口付近のきたな〜い川底を、集団でさっさーとキレイにしてくれればいいのに・・・。