2004年5月10日月曜日

由良川を下(や)る〈Peak.14〉



 このヒィーヒィー登山隊シリーズの放送が始まって、もう1年が過ぎたのに、大栄町が1回も登場していない。山がないから、登山隊の活動フィールドがない、と言ってしまえばそれまでだが、ならば、ということで5月の連休明けに由良川をカヌーで下ることにした。
 由良川に沿って車を走らせる機会がたまにあるが、いつ見ても濁っている。昔ならいざ知らず、いまどき生活廃水が流れ込んで濁るなんてことはなかろうに。なぜ由良川は“あんな”色をしているのか不思議だった。
 川をカヌーで下るには、何はともあれカヌーが必要である。カヌーは高い。1人用の一番安いやつでも十数万円。身近にいつでも遊べる川があれば、買い揃えてもいいのだろうけど、えん堤だらけの川では猫に小判、豚に真珠である。
 となると、借りるしかないのだが、大山町にある県立大山青年の家が候補にあがった。よく赤松の池でカヌー教室を開いている。問題は貸してくれるかどうかだ。早速電話してみた。
 「あの〜カヌーを借りたいんですけど…」
 「だめです。赤松の池以外での使用はできないことになっています」
 まぁ、見事なほどそっけない返事。にべもなく断られた、とはこんなことを言うのだろう。県民なら誰でも抱くであろう不満を口にしようとしたが、アホらしいのでやめた。
 結局、カヌーは用瀬(八頭郡)で借りた。町の所有だが、千代川でたびたびカヌーツーリングなどのイベントを企画しており、町外の人の参加が多いので、融通をきかせてあるのだろう。青年の家の対応とは打って変わって、ふたつ返事で快く、しかも安く貸してくれた。
 青年の家の担当者は「規則だから」で逃げるだろうが、週末以外は遊んでいる施設や設備を、どうしたら有効に活用できて、県民に多く利用してもらえるかを考えてほしい。施設を運営していく上で、どうしても規則が必要なら、それらのことをよりどころにして規則を作ってほしい。
 なんとも真面目な話になってしまったが、このことは3町にある施設についても同様である。
◇      ◇
 島集落の少し上手、西穂波の入り口にあたる中橋の下にカヌー4ハイを浮かべた。撮影用のカナディアンが1パイ。あとはカヤックの1人艇である。カナディアンは3〜5人用だが、田村カメラマンを乗せ、朝倉シェルパ隊長が1人で漕ぐ。
 本当はもっと上流から下りたかったが、えん堤があるし、水が少ないから、空き缶やら油やら得体の知れんゴミが目立ち過ぎて、とても向かう気にはなれなかったのだ。
 シェルパ隊長以外は昨年秋に高知・四万十川でカヌーの初体験を済ませている。水深がないので、滑るようにとはいかなかったが、船底をゴリゴリいわせながら漕ぎ出した。
 いざ、出発!
 ヒバリのさえずりを聞きながら、パドルをゆっくりと回すと、ミズスマシのように体が水面を滑っていく。なんとものどかな川下りである。相変わらずゴミが多いのはいただけないが、なかには“昭和”を偲ばせるものも。一度捨てられたら二度と流れない−由良川のゴミの宿命である。


▲撮影用のカナディアンに田村カメラマンが乗り、朝倉シェルパ隊長がこぐ。他の隊員は一人艇でスイスイ。

 川が濁っている理由が一つだけわかった。泥の粒子が細かいのである。静水では沈殿していた泥が、小波一つで巻き上げられ、川全体を覆っていく。そして、再び沈む前にまた巻き上げられる。
 コンクリートの護岸が案外少ないのも新しい発見だった。瀬戸より下流は、さあ工事、え?また工事!?の連続で、川としての体はなしていないが、島茶屋までは“れっき”とした川である。
 ときおりウグイが跳ねた。泳いでいるシマヘビが1匹。2匹が川岸で眠っていた。
◇      ◇
 のどかさをぶち壊したのは、カナディアンの転覆だった。昼飯(どさん子大将のラーメン)のために上陸しようと、島茶屋の合流点から100mほど円城寺川を遡った地点が事故現場である。
 10mほど離れて、その一部始終を見ていたが、信じられないほど見事に、田村カメラマンが頭から水の中へ落ちた。と思ったら、反動でフネがひっくり返り、シェルパ隊長も水の中へ。この時ほど自分の手許にカメラがないことを悔やんだことはなかった。
 −カメラが沈してどうするだぁ。なんぼ水の中に落ちたって、撮影してなかったら意味がないがな−


▲お昼を食べるために上陸したが、カナディアンが沈。フネとともに隊員の心も沈む。

 口では、大丈夫かぁ?と気遣ったふりをしたが、内心は不満たらたらで、フネの上から復旧作業の様子を冷たく見守った。
◇      ◇
 午後になって、河口からの向かい風がきつくなった。漕がないまま流れていると、フネがどんどん上流に押し戻される。波が立って、まるで海みたいだ。
 浜本隊員と入れ替わってカヤックを漕いでいたシェルパ隊長が、JRの鉄橋上手で沈した。それも元気良く2回も。ん?ウケ狙いか!?いやいや理由などどうでもいい。他人の不幸は蜜の味。身を挺して皆を元気づけようという心がけが大切なのだ。
 JR橋、工事中の旧国道橋をくぐって、由良宿に入る。水面から見る家並みは初めての景色だ。目の高さが違うだけで、これほど新鮮なものに感じられるとは…。
 ときおり、フネを岸につけて休んでいると、通りがかりの人が声をかけてくれた。
 「どこまで、行きなっだえ?」
 「海までです」
 そんなやりとりを繰り返しているうちに、遠くに二つの大きな橋が見えてきた。海側の橋の上をひっきりなしに車が行き交っている。
 フネのそばで、小さなボラが跳ねた。