2006年12月30日土曜日

仮想・初日の出を見に行く〈Peak.45〉



 2006年12月30日朝4時20分。目が覚めるとすぐに2階の部屋から窓の外を見た。真っ黒の空に星がひとつも探せない。
 三日前からしつこく降り続いていた雨はなんとか上がったようだ。
 下の道の路面に目を凝らすと、アスファルトのくぼみに水溜りらしきものが黒く浮かんでいる。でもそれ以外の部分は灰色に乾きかけているようだった。
 この日は『ヒィーヒィー隊元日特別番組』の収録日。正月らしく初日の出を拝もうという企画に、隊員全員が琴浦町の地蔵峠展望台に揃うことになっている。
 「本来なら初日の出なんか生中継せないけんよなぁ・・・」とは思っても、TCBの機材ではどう逆立ちしても無理不可能。仮想・初日の出を撮影するために、晴れそうな日をギリギリまで待ったけど、年内には晴れそうもなかったので、大晦日前日に決行するはめになってしまった。
 30日の日の出時間は7時15分であることはわかっていたから、ロケの準備や本番の所要時間から逆算すると、5時には展望台に着かねばならなかった。
◇      ◇
 地蔵峠へ向かって車を走らせると、下三本杉あたりから道の両脇が白くなった。
 中津原からは道も白くなった。とは言っても水雪。タイヤが軽く踏み潰していくから何も問題ない。
 野井倉を過ぎ、地蔵峠へ向かうくねくね県道も前日までの除雪が行き届いており、路面には5cmほどしか積もっていなかった。
 ちなみにこの日のロケは、旧地蔵峠から野井倉方面に下りている中国自然歩道(約600m)を逆に登って行き、地蔵峠展望台で仮想・初日の出を拝む計画なのだ。
 集合場所には10分遅れて着いた。
 ま、このくらいの遅刻なら許容範囲だなと思いながら車を下りたら、小前・スエイシー・浜本の各隊員とシェルパ隊長が待っていた。
 ていうことは、う〜む・・・隊員その㈰(田村隊員=右ページ『隊員の横顔』参照)とその㈪(谷口隊員=同)がまだ来とらんではないか。
 「カメラは僕が持ってきたですけど、三脚は田村さんの車に積んであるですよねぇ」とシェルパ隊長。
 仕方ない。その㈰は家も遠い(県西部在住)ことだしなぁ・・・と思っていたら電話が鳴った。イヤな予感。案の定その㈰からだった。
 「すみませ〜ん。いま家を出たとこです。あと1時間はかかりま〜す」
 聞けば時間通りに起きたことは起きたのだけど、二度寝してしまったという。
 時計を見ればすでに5時半。どさくさまぎれに、その㈪が合流してきたので、その㈰と三脚抜きで撮影にかかることにした。
◇      ◇
 スタート地点の積雪は40cmほどあった。県道から尾根に取り付くための狭く急な階段は、ほとんど段々がわからなくなっていた。
 県道の路面で最初のシーンを撮影した。
 本来なら、三脚の上にカメラを載せてその㈰が撮影し、その横でシェルパ隊長がマイクと照明を持つはずだった。
 でもそれはかなわぬ夢というか、絵に描いた餅というか、シェルパ隊長が直面した現実は厳しかった。
 照明ライトをカメラに固定し、右肩にはそのカメラ、そして左肩には照明のバッテリーを自ら担がなければならないのだ。その重さはなんと約20キロ。
 「ちょっと厳しいよなぁ」と思いながら腕時計を見たら6時をまわろうとしていた。
 躊躇してはいられない。太陽は待ってはくれない。早くカメラを回して登り始めねば・・・。
 その時だった。こちらを向いたライトの強烈な光の向こうから、「ううっ・・・腹が痛い」という声が聞こえてきたのだ。
 ライトの向こうにいるのは、どう考えても一人しかいなかった。
 シェルパ隊長が使えないとなると、この日のロケが流れてしまう。何のために朝5時に集合したのか・・・。
 「ビールの飲みすぎでないだかいや」
 「日頃の行いが悪いけだがな」
 心ない声が静かに飛んだが、シェルパ隊長は浜本隊員からティッシュ箱を受け取ると、さっさと闇の中へ消えていったのだった。
◇      ◇
 県道から地蔵峠までの道のりは約600m。最初の100mほどは上り勾配がきつく、雪をラッセルしながら歩くためかなり苦労したが、途中からは慣れた。というか、歩く距離の短いのがわかっているから根気が持つのだ。
 腹の中の悪霊を退治したシェルパ隊長は、体調が戻ってきたのか、かなりハードな撮影をこなしながら元気よく歩いている。
 本来ならシェルパ隊長が持つはずのマイクや予備バッテリーその他の付属品は、その㈪が持っている。因果応報、弱肉強食、遅れた罰だから仕方ない。


【重い機材を持って歩くその㈪】

 ウサギやキツネ、イノシシの足跡が現れては消えていく。
 小前隊員が息子の空くん(6歳)を連れてきていた。僕がヒーこら言ってラッセルしたすぐ後を元気よくついてくる。きっと彼は、とってもアウトドア度の高い少年になっていくに違いない。ぜひ友達を巻き込んで、自然の中で遊ぶことの楽しさを実感しながら、体験を積み重ねていってほしい。

【小前隊員は息子の空(そら)君を同伴】

 な〜んて考えたりしていたら地蔵峠に着いた。6時40分。
 東の稜線の雲がとれず、仮想・初日の出はやっぱり拝めなかったけど、雨・雪・風が一切なしの穏やかな朝だった。


【地蔵峠の名前の源になったお地蔵さま】


【一丁地蔵】

 しばらくしてその㈰も合流して久しぶりに全員で記念撮影。いまいち盛り上がりに欠けた元日特別番組のロケを終えた。
 そういえば今回のこの原稿もなんだか盛り上がりにかけとるし、何にもオチがないので、ここで終わるかな。すまん。