われらは登山隊。今月こそ山に登らねば…と思っていたのだけれど、「ただでさえ暑いのに、汗だくのおっさんの顔なんか見たくもない」という声がしきりに聞こえてくるもんだから、仕方なくというか、喜んでというか、今月は山じゃなく川をのぼることにした。
ルートは琴浦町一向平の畜産団地下の川原から『鮎返りの滝』まで。恥ずかしながら2㎞ほどしかない。でも、僕を初め隊員たちは誰も歩いたことがなく、したがってテレビにも初登場の魅力たっぷりの場所なのだ。
梅雨の晴れ間がのぞいた7月14日。一向平に車を置いて、スエイシー隊員の4駆の荷台に乗って川原へ。のんびり構えて午前10時前から歩き始めた。
▲お昼の冷麦をゆでるには大量のお湯が必要になる。ということで、大きな鍋を持参することにした。スエイシー隊員がそこらへんにある紐を利用して、ザックに固定した。
このあたりは、少し上流で野井倉の水田と発電所用に水がごっそりとられるため、本流がまるごと姿を消してしまう。
本流が再び姿を現すのは、集落の下で発電に使った水が戻ってきてから。2㎞くらいは“水無川”が続く。でも、その間も山水と湧き水でそれなりの流れができてしまうから、さすがに加勢蛇川。上流部ではまだまだ実力を持っている。
山水でできたささやかな水溜りに、カジカ(蛙)のオタマジャクシがたくさんいた。体長は2㎝弱。まだ足は出ていない。
すぐ親蛙も見つかった。カジカ(河鹿)の名はやっぱり体の色が鹿に似ているからかなぁ。6、7㎝の体の色と模様が微妙に鹿っぽかった。
300mほど歩いて野井倉の取水点。本流がやっと姿を現し、待ちかねていた小前隊員が竿を振り始めた。
◇ ◇
この谷にある松本薫さん(野井倉)のワサビ田で、サンショウウオの撮影をさせてもらった。残念ながら体長2cmほどの赤ちゃんしか見つけることができなかったが、サンショウウオの生息する自然がまだまだ残っていることを再確認できた。でもその場所が、人工のワサビ田なのは皮肉な現実なのだ。
ワサビ田を出てすぐ、大きなえん堤にぶつかった。上下2段の本格派。合わせると10mほどの高さがありそうだ。
左側の崖をよじ登ってえん堤を巻くことにし、ロープを持っていた谷口隊員が先頭で崖に取りついた。
先に上ってロープを垂らすはずだったが、谷口隊員の登り様を見ていると、ロープを使うまでもなく簡単に登れそうだったので、さっさと自力で登っていくことにした。
密集した草で、石のゴロゴロした足元が隠れ、何とも歩きにくいうえ、トゲのある草が攻撃してくる。こんな場所は早く脱出せねば——先を急ごうと顔を上げたら、谷口隊員の青ざめた顔が目に入った。
「あれ、マムシじゃないですか〜?」
指さした先の木の枝には、体に模様のあるヘビがとぐろを巻いていた。
「あのすぐそばを僕の顔が通ったですよ〜」ふむふむ。他人の不幸は蜜の味。よく見ると、マムシではなくヤマカガシ(軽い毒ヘビ)。なんだ、たいしたことないがな。それにしてもえん堤を巻こうとしたら、ヘビがとぐろを巻いていたとは・・・う〜む、沢のぼりは奥が深い。
◇ ◇
この日の昼飯は冷麦。ソーメンだとどうしても流したくなるから、流すための青竹を持って行く余裕もないので冷麦にした。冷麦だと流さんでもえーだかい!と突っ込まれそうだけど、その通り。冷麦は流さなくてもいいのだ。
▲お昼は冷麦。ゆでた麺は、流さんでもえーので、ざるで冷やして食べた。
誰が決めただい!とまたまた突っ込まれそうだけど、きりがないので先に進もう。
昼飯後、沢登りを再開。するとすぐ要塞のようなえん堤にぶつかった。両サイドは垂直の崖。どう頑張っても越えていけそうになかったので、いさぎよくあきらめて、来た道を引き返すことにした。
小前隊員は1匹もよー釣らんし、なんだか盛り上がりに欠けたロケになってしまったなぁって思っていたら、なんとこの日のクライマックスは、やはり最後に控えていた。
スエイシー隊員の4駆は、川原に頭を向けて停めてあった。車のすぐ後ろにスペースがあったから、普通のドライバーならバックして切り返そうとするに違いなかった。
しかしなんと、スエイシー隊員は川原にゴイゴイ入り、ぐるっと回って車の向きを変えたのだ。
荷台に乗った我々は、車から振り落とされまいと、唸り声を押し殺しながら必死に(荷台)ガードにしがみついた。
よじれる内臓を押さえながら「アメリカはこうして、世界のあちらこちらで弱小国を蹴散らしているんだろうな」という思いが頭をよぎった。
「それにしても、久しぶりにヒィーヒィー言った気がするなぁ…」