2006年1月14日土曜日

冬はやっぱり『かまくら』なのだ〈Peak.34〉





 1月14日、第2土曜日、関係ないけど友引。午後から雷と一緒に大雨が降り、加勢蛇川がこの時期には珍しくまっ茶色に染まった。田んぼの畦下に残っていた去年の雪もきれいにとけた。
 翌15日は恒例の(と言っても2回目)かまくら作りの日。今冬は寒気と雪が12月からパワー全開で暴れまくったので、古布庄とか以西とか奥部の小学校の校庭でもつくれるかな〜と期待していたが、やっぱり今年も人里離れた一向平になってしまった。大きなかまくらをつくるには、少なくとも1mほどの積雪が必要だから、どうしても場所が限られてしまう。
 で、15日の朝9時前、一向平の玄関・畜産団地入口に集合した。ヒィーヒィー隊が5人。ありがたいことに助っ人部隊の『らくらく山歩会』の方が多くて6人。都合11人。



 集合場所付近の積雪は、前日の大雨でとけて50cmほどになってしまっていた。
 かまくら建設現場は昨年と同じ一向平駐車場である。畜産団地から1kmほど奥に上がるだけだが、例年この時期には2m近い積雪がある。だから、現場に行けば1mぐらい軽いわいっ!と楽観して、船上山少年自然の家から借りたスノーシュー(西洋かんじき)を『うんとこせっ!』と履いた。
◇      ◇
 なにをかくそう、この2,3日前から僕は風邪をひいていた。建設前夜の体温は38.5度。かなりやばい、と思いながら解熱剤を限度いっぱい飲んで寝た。
 そして翌朝。体温はまんまと37.2度にまで下がっていた。とはいえ、厳寒の中での建設作業が待っている。普通なら当然キャンセルのケースだろうなぁ、と思いながらも集合場所に急いだ。隊長はつらいのだ。
 スノーダンプ、スコップ、バケツ、昼飯材料その他。いつものことながら荷物が多い。加えて今年は一向平の山水が止まっているから、水まで運び上げなければならない。
 山歩会のメンバーに誘われて、琴浦町の英語指導助手のキャサリンが参加してくれていた。彼女は、米国南部のアラバマ州出身。雪にはシカゴの大学時代に初めて出あったという。でもシカゴに降る雪は汚くて、すぐに嫌いになったそうだ。
 和かんじきほどではないが、スノーシューも左右の足を離して歩かねば、右足で左足を左足で右足を踏んでしまい、ややこしくなって転んでしまう。
 キャサリンが何回もこけた。やっぱ外人で足が長いから、ガニ股モードは不得意なのかもしれない。こけるたびに笑い声があがった。
 僕はいつもなら先頭を歩いているはずなのに今回はしんがり。建設現場に着く前からすでにガタがきている体にむちうちながら、隠居した老人のような眼差しで、遠くでキャサリンがこけるのを見ていた。
◇      ◇
 建設現場の積雪は予想通り1mを超えていた。午前中に高さ3m・直径4mの本体を立ち上げ、午後から内部の掘削工事にかかる段取りである。
 そういえば小前隊員のヒィーヒィー隊デビューは去年のかまくら建設だった。
 初参加で、しかも『自称・かまくら職人』のくせに大きな顔をしてあれこれ指図していたが、今年は晴れて“自称”がとれ、押しも押されもせぬ『正統派・かまくら職人』として、さらに大きな顔ができるようになった。
 直径4m、高さ3mといえば相当な大きさである。建坪は、え〜っとパイアールの2乗だから・・・
12.56平方メートル≒3.8坪≒7畳もある。内部はたぶん5畳くらいになるのかな。
 「そこが出っ張っている」とか「もっと雪を上げろ」とか、かまくらの上に職人が陣取って、下にいる人夫たちにあれこれ指図している光景を遠くに見ながら、つらい肉体労働を避けた僕は、一人弱々しく昼飯の豚汁づくりに精を出した。
 キャサリンは雪だるま製作に精を出していた。米国式の雪だるま(American Snowman)は、なんと3段式。上が頭、中は胴体、下は足だという。もちろん下が一番大きい。


▲上が頭、中は胴体、下は足。アメリカ式雪だるまは三段だ。

 やっぱり足が長いからなぁ、と簡単に納得してしまったが、他の難しい理由があるのかなぁ…。
 キャサリンは、かまくら建設現場のすぐ横で、水気たっぷりの重くてくっつきにくい雪のかたまりを根気よくゴロゴロ転がした。
◇      ◇
 建設は順調に進んで、午後4時前には、去年よりちょっとだけ大きいかまくらが完成した。その周りにはバケツに雪を詰めてつくったミニかまくらが70個ほど。3段式の雪だるまも、バケツの帽子とキャサリンのマフラーを身にまとってすましている。
 みんながかまくらの中に入り、七輪を囲んでワイワイ言いながら、山歩会の宮川さんと岩本さんが差し入れてくださったかき餅とお汁粉をいただいた。
 “いただいた”なんて上品な食い方をした隊員ないし会員は一人もいなかったような気もしないではない。でも、差し入れはいつの世もありがたく“いただく”ものなのだ。
 僕の隣でキャサリンが「少し雪が好きになった」と話した。そーだろ〜、そーだろ〜。日本の雪はきれいなのだ。
 それにしてもさぶい。他の隊員ないし会員は、「やっぱりかまくらの中はぬくいなぁ」なんてほざいているのに、さぶすぎる。
 理由は簡単だった。かき餅焼き係を買って出た谷口隊員が僕の前にしゃがみこみ、七輪の熱を遮断していたのだ。
 そう気づいた時はすでに「どけ!」と怒る気力も「どいてね!」と頼む寛容さもなくなっていた。
 そして僕の体は、ぬくいはずのかまくらの中で、体温急上昇モードに突入していった。


▲夕暮れを待って、ミニかまくらに灯をともす。このシーンを撮影しなければ番組は終わらない。撤収する頃はどっぷり日が暮れていた。