2005年10月25日火曜日

登山隊今年も芋を食う〈Peak.31〉



 もう30年以上も昔、僕がまだ高校生だった頃。秋が進んで肌寒くなった時期にラジオから『芋煮会』という言葉が聞こえてきた。
 たぶん平日の夕方で、年配風の男性&女性アナウンサーがNHKらしい穏やかな口調で、リスナーからの便りを紹介したりしていた。初めて聞いた時は漢字が想像できなかった。
 「いもにかい?」
 でもアナウンサーが紹介する便りを聞いているうちに『芋煮会』だとわかった。
 川原でサトイモその他を煮て、酒その他を飲みながらみんなで賑やかに騒いだりする、なんだか楽しそうな催しらしかった。
 宮城なら豚肉を投入して味噌仕立て。山形なら牛肉で醤油味。今ではコンビニでも芋煮会セットが売られ、東北の人にとっては誰もが知ってる秋の風物詩となっている。
 そんな芋煮会を一昨年から内々で始めた。会場はもちろん加勢蛇川。いくら草ぼうぼうで荒れていても近くにあるのだからしょうがない。


▲加勢蛇川の川原で芋煮の準備をする隊長ら。けっこういい中州が見つかった

 ここ数年加勢蛇川原では、セイタカアワダチソウ・クズ・カナムグラの雑草御三家による“仁義なき戦い”が繰り広げられていたが、今年は数回の大水で御三家が流され、石・砂がかなり顔を出している。
 堤防から少しだけヤツらを踏みつけて歩けば、飲み食いする場所も比較的探しやすくなっているようだ。秋の一日を楽しめる場所を探して、河口から堤防を走ってみることにした。
◇      ◇
 国道9号から加勢蛇川下手の一帯は、誰が見てもセイタカアワダチソウ(え〜い!長い!以下“セイタカ”に省略)の縄張りに違いなかった。
 セイタカと言えば、根から毒を出して近辺の植物をやっつけ、自らの勢力を伸ばしていく性悪者として知られ、今ではやっかい者の代名詞みたいになっている。でも30年以上前(またかいや!)は違っていた(たぶん)。
 なんだか()が多いが気にしない。実は僕はその決定的な理由となる衝撃的な事実を覚えているのだ。
 ん?決定的とか衝撃的なんて文字を使ったら大げさな雰囲気になってしまった。言うのが恥ずかしくなってきたけど、思い切って言ってしまおう。
 実は30年以上前に、当たり前だが昔は若かった女優の十朱幸代が《セイタカアワダチソウ♪》という唄を歌っていたのだ(たぶん)。
 十朱幸代は、当時はバリバリの清純派美人女優(だったかな?)。つまりセイタカは、彼女が歌っても(彼女の)イメージを損ねない評価をされていたということなのだ。
 セイタカは、当時はまだ空き地その他にポツポツあるだけで、秋の風にそよぐ長身の美人植物的な扱いをされていたのだと思われる。
 う〜ん、なんだか理屈っぽくなってしまったけど、ついでにもう一つセイタカの弁護をしておけば、ヤツはアレルギーを引き起こすとされている向きがあるが、それはまったくの誤解。
 セイタカは花粉を飛ばして受粉させる風媒花ではなくて、虫に花粉を運ばせる虫媒花だからアレルゲンにはならないのだ。
 ま、日頃のおこないが悪いから、ブタクサと間違われているのかもしれない。
◇      ◇
 芋煮会の主役・サトイモは昔ながらに芋車で擦った。
 芋車は、昔の人の知恵が結集されているスグレモノである。家の前の川にセットさえしておけば、流れの速さとサトイモの量にもよるが、1〜2時間で料理前の下準備を9割方終えてくれる。
 ほかの用足しをしているうちに、ちょうど栄養価が残る程度に皮をむいてくれるのだ。
 サトイモには当然デコボコがあるから、ボコ部分にはどうしても皮が残ってしまうけど、それは仕方ない。後でちょっと取り除けばいいのだ。その手間が嫌ならサトイモを食わなきゃいい。


▲芋車は昔の人の知恵が結集されているスグレモノだ。芋だけでなく、たとえば洗濯物だって洗えるかもしれない

 昼前になって新上法万橋の少し上手の川原に降りた。たき火をして鍋をかけなきゃ正統派とは言えないが、腹が減っていたので面倒くさいことはしていられない。七輪で代用した。
 材料と味付けは正統派山形風でシンプルに。スキヤキ風の味付けで、サトイモをメインに牛肉・コンニャク・白ネギを投入した。
 東北地方の芋煮会には、豊作への感謝と同時に、川を大切にしながら川に親しもう、というメッセージが込められている・・・な〜んてこむずかしいことを思い出したりしているうちに芋が煮えた。
 秋の陽を総身に浴びながら、川原で食べる味はまた格別。 “いない”で買った28センチの鍋一杯の芋煮を4人で完食した。


 芋食えば

  腹が張るなり


   加勢蛇川


           
 (隊長)