3月8日、午前9時。船上山ダムの南側に車を停めた。鱒返しの滝(3段滝)の入り口まで車で行く予定だったが、雪が多くて、入り口の300mほど手前で降りて歩き始めた。
先回、TCBのカメラが鱒返しの滝を訪ねたのは2年前の冬。ズルズル滑る勝田川に苦しみながら、下段の滝を撮影した。
その番組の画面には、当時はただの野鳥マニアだった(ん?今でも同じか!?)谷口隊員しか映らなかったが、僕と浜本準隊員も同行していた。そして撮影は田村隊員が担当していたから、初代正規隊員が勢揃いしていたわけだ。
そして、その番組がきっかけとなって2か月後にこのヒィーヒィー登山隊シリーズが始まったのだから、鱒返しの滝は、思い出の滝と言うか因縁の滝と言うか・・・ま、どっちでもいいか。
日なたの雪はすっかり消えていたが、日陰にはまだ30センチほどの雪が残っていた。鱒返し滝橋を過ぎるとすぐ、鱒返しの滝と千丈滝の案内板が現れた。
まずは杉林の中を抜けて鱒返しの滝(上段)の展望台を目指す。幸いなことに杉には花粉がついておらず、くしゃみに苦しむこともなさそうだ。
林の中につづら折れに切られた登山道には残雪が5センチほど。ざらめ状になった雪はふんばりが効かず、滑って歩きにくかった。
◇ ◇
ところで今回の目的地は鱒返しの滝ではなく、その上方に広がる一枚岩渓谷。滝と同じく約110万年前の大山の噴火でできたと言われている由緒正しい渓谷である。▲ます返しの滝の上部、一枚岩渓谷で。ここは、何万年もの時をかけ、水の流れによって削られてできた岩肌が続いている。
う〜ん、110万年前か・・・琴浦、大栄あたりはいったいどんな様子だったのだろう。大山が噴火していたんだから、火山灰がどさどさ降っていたんだろうなぁ。
なんて思いをめぐらしてるうちに、上段の滝の展望台に着いた。県道からはたった20分ほどである。
以前、『らくらく山歩会』で一枚岩渓谷を歩いた谷口隊員によると、この展望台から渓谷までは、ヒィーヒィー言うほどのこともないらしい。
今年に入って、1月はかまくらづくり、2月はビーチコーミングと、ヒィーヒィー登山隊だと言いながら、ひとつもヒィーヒィー言っていない。
なんだか楽をし過ぎているような気がして、ちょっとだけ後ろめたい。でも、ちょっとだけである。
2年ぶりに見る上段の滝は相変わらず優雅だったが、中央付近の幅が広い菱形のような姿が、なぜだか僕にはテレビでしか見たことのない口子(くちこ=ナマコの卵巣を干した珍味)に見えたのも相変わらずだった。
展望台からは、備え付けのロープをつたって一気に、メインの登山道まで「わっせわっせ」と登った。
◇ ◇
登山道は、すぐに千丈滝方面と一枚岩渓谷方面とに分岐していた。進路はもちろん左側の一枚岩渓谷方面。上段の滝の左岸を巻くかたちで登山道が切られている。でも、そっちはまるでわざと登山道に雪を盛ったかように、半端じゃない深さの雪が残っていた。でも、ひるんではいられない。僕は隊長である。たくさん雪があるからといって、先頭を譲るわけにはいかないのだ。
雪の深さは腰のあたりまで。というか股で止まるから実質的には股まで。ズボッ、ズボッと1本ずつ足を引き抜きながら歩を進めた。
「ヒィーヒィー言うほどのこともない」はずだったのに〜と愚痴りそうになりながらも、ズボッ、ズボッ、ズボッ。
「でも、久しぶりにヒィーヒィー隊の本領発揮だな」と、少しだけ感じていた後ろめたさがとれた喜びを感じていたら、後ろから後ろめたさのかけらもない声が飛んできた。
「隊長、歩幅が狭くて歩きにくいっすよ」
なんと隊員めらは、僕の足跡をトレースするだけで、なんら建設的な行動に取り組んでいなかったのである。
親の心子知らず。『隊長の心、隊員知らず』とはこういうことを言うのだろう。
◇ ◇
100mほど続いた豪雪地帯を抜け、わが隊はまた杉林に突入した。正しく言えば、杉林の中での悲惨な雪中行軍に突入した。
豪雪地帯を抜けた時点で、登山道は一枚岩渓谷と並行しており、左側の斜面を下っていけば良いことはわかっていたが、渓谷は400mにわたって続いているのもわかっていたから、とにかく下りやすい場所を探した。
でも、なかなかない。
とりあえず沢筋と思われる場所を当たりをつけて下り始めたのだが・・・これが大きな間違いだった。
雪で折れた杉の枝を雪が隠し、雪の下で中空になった場所にはまったら胸まで雪がくるという、あんまりありがたくない雪づくしが30分も続いたのだ。
隊員たちからは「ヒィーヒィー」ではなく「ギャー」と「痛ッ」。
やはり110万年はただものではなかった。
▲滑らかな岩肌が続く渓谷。夏場はウォータースライダーで楽しめそうだ